タリーズコーヒー

タリーズコーヒーに来ている。私は、この若者文化であるインスタグラムで、頻繁に画像をあげられがちな、タリーズや、スタバといった類いのコーヒー屋には、あまりそぐわないほど洗練されていない人間なのであるが、それでも、喫茶店の雑踏というか、様々な人間を、一度に鍋に入れてごった煮にしたような店内の猥雑さが、私にはたまらなく文化を感じられる場であるように、思われるのだった。

 カフェインが喉を通って頭に染み渡る。コーヒーの苦味が、そのまま自分の脳を覚醒させてくれるように感じる。カフェイン中毒という言葉がある通り、カフェインはある種の、麻薬なのに違いない。店内の雑音を聞きながらカフェインを摂取する。ある意味喫茶店からは、BARと同じ酩酊感のようなものを与えられる気がする。

 アルバイトまであと一時間。就活を終えてから、はじめてのアルバイトである。店長は元気だろうか。アルバイト開始の1時間前はいつもこの調子である。私はカフェインを呑みながら、喫茶店でアルバイトのための英気を養うのである。


f:id:MIKELANJYERO:20170810160406j:image

FF5のオメガというモンスター

 スーパーファミコンの名作RPGFF5にオメガというボスキャラクターがいる。ボスと言っても、物語に直接の関わりはない。次元の狭間というエリアに、普通のモンスターのようにウロウロしているのだが、これがやたらめったら、物語のラストボスであるエクスデスより強いのだ。


f:id:MIKELANJYERO:20170726134326j:image

 オメガは機械仕掛けのモンスターである。物語中の失われた文明に作られ、文明崩壊のきっかけとなったらしい。そのあまりの強さに、発明者である人間の手に負えなかったというところが、人類の業の象徴である気がしてならない。僕は、この何の緊張感もなくフィールドをウロウロしていて、何の予備知識を持たないプレイヤーに絶望を朝飯前のように与えていくこのオメガというキャラクターが何となく好きだった。もう一体、同じようなキャラクターでしんりゅうというモンスターもいるのだが、FF5の中で異様な存在感を放っているのはオメガのほうだろう。


f:id:MIKELANJYERO:20170726134357j:image

 もう一度言うが、僕はオメガというキャラクターが好きだ。主人公たちの物語など知らんぷりで、勝手気ままに生きているその姿に、幼少期から孤独になることの多かった僕はある種のシンパシーを感じたのだ。

 僕は中学、高校と、1人になることが沢山あった。もっとも、僕のコミュニケーション能力不足の原因によるところが多かった気がするのだが、昼休みの時間に周りの視線を気にして、大して仲良くもないクラスメイトと机を合わせる連中に、反発する気持ちがあったのも事実だ。僕は学生時代の途中から、思い描いていた青春像を放棄し、進んで1人で食べるようになった。しかし、悲しいかな。閉鎖的な空間で孤独を選ぶということは、やはりそれなりの制裁も覚悟しておかなければならない。僕は周囲からイロモノの目で見られ、それはとても苦しかった。それでも1人で居続けたのは僕がプライドの高い頑固者だったからである。


f:id:MIKELANJYERO:20170726134501j:image

 僕がオメガだったらどうなるだろうか。指差す奴らをアトミックレイで沈めて、くだらないクラスメイトをはどうほうで一掃するだろうか。僕はオメガの孤高さに憧れた。孤独を孤高に高めるのは絶対的な力だろう。クラスメイトの輪の中に入れなくても、オメガだったらそんなことはお構い無しだろう。オメガは教室の隅で静かに1人、すました顔で本でも読んでいるに違いない。

 今、僕は大学4回生だ。とてもオメガなどと言っていられる年齢ではないが、オメガの生き方は僕の胸に深く刻まれている。恋人なんていらないし、友達なんていらない。機械仕掛けの無口な身体で良いから、僕はオメガになりたかった。

タナカコーヒー

 
f:id:MIKELANJYERO:20170715012155j:image

 今日は祇園祭を見たついでに祇園のタナカコーヒーに来た。タナカコーヒーは真夜中まで営業されている喫茶店であり、祇園という繁華街の街中にあるためか、土地柄水商売のお店への出前が多い。店内を見ると、着物を着た派手な髪色のお姉さんがいたり、目付きの鋭い男がいたり、かと思えば普通の観光客が談笑しているなど、さながら裏と表が交差しているような客層であった。僕はこのタナカコーヒーの曖昧な空気が好きであった。夜に来て、華やかな世界を側に感じながらコーヒーを飲み、本を広げて没頭する。非日常と隣り合わせの環境は、僕に自己陶酔を起こさせるのに充分であり、少し大人になれたかのような気分に僕を陥らせた(と言っても僕はもう22歳なのだが)

 店員さんたちはいつも出前のサンドイッチをせっせと作っている。多種多様のフルーツと生クリームが散りばめられた、宝石のようなサンドイッチである。僕がその様子をじっと見ていると、店員の1人であるお爺さんが「食べる?😇」と冗談で笑いかけてくれた。僕も笑顔でそれに答えた。

 外へ出ると、祇園のネオン街が広がっていた。カフェインを摂取したから、頭が変に冴えて、高陽している。「遅い時間だけど、もう少し散歩してから帰るか。」僕はそう思って、自転車を押して祇園の街を歩いた。夏の夜の湿った匂いが、鼻につん、とついた。

海の家


f:id:MIKELANJYERO:20170714154235j:plain


海の家だ…。
全然海の家ではないし、むしろマンションなのだが、JR東海道線国府津駅のホームから、背後に広がるこの景色を見た時、僕は感動した。2つのマンションの白と、その狭間から見える爽やかなスカ
イブルーが、何とも言えない美しさを演出していた。
 僕がもし、静岡の工業地帯でなく、海沿いのこの街で暮らしていたら。僕がもし、名古屋の排気ガスが煙る高速道路の側のマンションでなく、海沿いのこの街で青春を過ごしていたら。フェンス越しに見える海の美しさも、白いマンションも、また違ったものとして目に映ったのだろうか。
 そうこうしているうちに僕のお目当てのJR快速アクティー熱海行きの列車が向かいのホームに来てしまった。もう京都に帰らなければならないのである。僕は国府津の街に降りたことはないし、国府津という街もよく知らない。僕はたまにこのような妄想をする。まだ見ぬ街に、ありえたかもしれない自分の人生を想像するのである。