きぬかけの道

河村はきぬかけの道が好きだ。両端に、ズラーっと竹林がそびえていて、まさしく京都だという趣があるからだ。河村は、京都の私立大学、立命館大学の1回生である(関西だと回生呼称である)。しかし、せっかく一浪して入学した立命館大学では、河村は1人も友達を作らなかった。彼は当初こそ、友達を作り、勢い彼女も出来れば良いなと意気込んでいたのだが、入学して1月が過ぎ、2月が過ぎ、そして夏休みに入るころには、もう河村には何の気力も無くなっていた。クラスという閉鎖空間での人間関係と、大学の自主性が重んじられる人間環形とでは、少し勝手が違ったのもあるが、ひとつ確かに言えるのは彼には臆病な気質があることであった。
 故郷の島根より京都に来て、一浪した手前、おめおめと家族のもとに帰るわけにもいかず、河村は一日を無言で送る日々が増えた。「華の大学生活なのに…」彼は、自らの状況を省みて、思わずいつもそう独り言を呟いてしまい、同時に、あれほど憧れてきた京都の街並みが、ひどくいやらしいものに感じられた。
 空きゴマの時間、彼は持て余した暇を、きぬかけの道の散歩に費やす。立命館大学の後ろから仁和寺方面に伸びるきぬかけの道は、趣がありながらも、人通りが少ない。妙に見栄っ張りな彼にとって、クラスメイトに遭遇し得ないこの場所はとても落ち着くのであった。





 ここまで書いておいて、結末を付けようにも、どうも面倒くさくなってしまった。なぜ俺は河村とかいう得体の知れない人間の物語を書こうとしたのか、我ながら理解に苦しむ。誰か彼の物語を書いてくれ。